パリ市の税関職員を長く勤めたルソーは、素朴派の代表的な画家です。独学で絵画を修めたルソーの作品は、シンプルで力強い表現力に満ちています。細部まで均質に描き込まれた画面、遠近法によらない独自の空間表現、独創的な色彩の対比やグラデーションなどは、伝統的な絵画技法とは大きく異なります。また、非常に謎めいた、ときに異国情緒豊かな主題によって、画面からは神秘的で象徴的な雰囲気が漂います。画家は、写真やイラストなどからイメージを借用して制作したことでも知られています。一見して稚拙な表現は批判の対象でもありましたが、ピカソやアポリネールに称賛されて次第に評判は高まり、20世紀の前衛絵画にも大きな影響を与えました。
満月の夜、深緑の森の湖畔で笛を吹く黒い蛇使いの女。その音色に誘われてか、とぐろを巻いた蛇たちが顔をのぞかせています。ルソーの晩年の傑作で、太古の自然をも想像させるこの幻想的なジャングル光景は、細部まで精緻な筆致で描き込まれています。